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第五十局 藤原佐為 佐為:神は、なぜヒカルのもとに、私を蘇らせたのだろう?確かにヒカルは成長目覚ましく教 えている私としても、それは誇らしもあり、喜びでもある。でも、私は?私の碁は?この身が 口惜し、やっとめぐってきた、あのものとの対局。神の一手を究めるはずの、あのものとの対 局。でも、やはり無理だった。私が私として打てない碁では、あのものと共に遥かな高みを目 指すのは無理。神の一手を究められないなら、私は何のためにここにいるのだろう?いつまで まってばよいのだろう?千年前、すべてはあそこから始まった。毎日毎日、宮中で碁を打って いた私。しかし、もう一人の大君の指南役と対局にて雌雄を決し、指南役を争う場でのこと。 あのものは碁笥の中に白石が混じっていたのを、一瞬の隙をついて、自分のあげはまにした。 私は声をあげようとしたとき。 (佐為:「そなた、いま?」 あの者:おい、貴様!いま、碁笥に混じっていた黒石を自分のあげはまにしたんだ! 佐為:な、何を言う?それはいま、そなたがしたことではないか? あの者:これはなんとつまらぬ言い訳を、みんなの目が盤上に注がれているのをよいことに、 碁笥に混じっていた私の石をあげはまにしたではないか? 佐為:そなたこそいい加減な! 大君:見苦しいぞ!静まれ!そのような下卑た行為が余の前で行われたなどと考えたくもない よ。続けるがよい。) 佐為:私は負けた。心の動揺を抑えきれぬままに、さかしいごまかし事をしたという汚名まで ついて、都を追い出された私に、生きるすべはなかった。対局から二日後、私は入水した。だ が、私はもっともっと碁を打ちたかった。成仏できぬ私の魂は、ある碁盤に宿り、遥かな時を 経て、瀬戸の海に浮かぶ因島で、ある少年の声を聞いた。それが、虎次郎。 (佐為:「少年よ、私の流したくやしい涙が見えるのならば、そなたの心の片隅に、私を住ま わせておくれ!」) 佐為:私は、彼と一緒に思う存分碁を打つことができた。秀策と名を改めた彼は、やがて本因 坊跡目となり。私は、彼となら神の一手を究められると確信した。しかし、彼は病魔には勝て ず。虎次郎!本因坊秀策!彼と過ごしたときを私は永遠に忘れないでしょう。永遠に! ヒカル:佐為!そこのか? 佐為:そう。そして、あなたが私の前に現れた。 (ヒカル:それにしても、全然落ちないぞ、この汚れ。 アカリ:うん?汚れってなんかいないよ。きれいじゃない。 ヒカル:これ! アカリ:どこ? ヒカル:ここ! アカリ:何もないよ!どこ? ヒカル:ここだってば。 佐為:見えるのですか? ヒカル:だから、先からそう言って。 佐為:私の声が聞こえるのですか。私の声が聞こえるのですね。 アカリ:やっぱりそんな跡なんて。 ヒカル:誰だ? 佐為:あまねく神を、感謝します。私は、私は、私はいま一度現世に戻る。) 佐為:でも、私は最初とても困りましたよ!何せ、ヒカルは碁一切思ったことのない子でした から。 (ヒカル:お前、そんなに碁が好き? 佐為:はい。 ヒカル:まだ碁が打ちたい? 佐為:はい。 ヒカル:でも悪いな。俺碁なんて、ぜんぜんやる気ないから。うん? アカリ:ヒカル! 先生:進藤君? ヒカル:な、俺以外のやつじゃだめなの、乗り移るの? 佐為:多分。 ヒカル:分かったよ。たまに打つだけならいいか。 佐為:え?そいで、そいで、何処で碁を打つんですか。 ヒカル:碁会所。わ、じじばっかし。あ、子供いるじゃん。あいつと打てる? 市河:うん、でも、あの子は。 アキラ:対局相手を探してるの? ヒカル:うん。 アキラ:いいよ。僕打つよ。) 佐為:そこで出会ったのは塔矢アキラ。これこそ、神の与え賜った運命だと思ったのです。そ う、運命の歯車はまわり始めました。 (ヒカル:よーし。 佐為:17の4、右上角、小目。 ヒカル:17の、1、2、3、4。 アキラ:え?思いっきり初心者の手つきだな。) 佐為:私はヒカルの体を借りて、3度ほど戦いましたっけ。 (佐為:16の17、右下角、小目。 ヒカル:16の17、ここか? 佐為:3の16。 ヒカル:3の16? 佐為:8の5。 ヒカル:えと、8の、そこか? アキラ:あ、これは、これは最善の一手ではない。最強の一手でもない。僕が、どう打ってく るかを試している一手だ。僕の力量を測っている。はるかな高みから。) 佐為:塔矢アキラは素晴らしい素質を持っていた。ヒカルと同い年たというのに。だから。 (アキラ:どうぞ。 ヒカル:あ、うん。こいつ平気でぎゃらりしょってるよ。) 佐為:だからあの時。 (佐為:私の小角手を待っているのか?ならば、それもよかろう。15の16、小角!さあ、 くるがよい! アキラ:あ、ありません。 ヒカル:あ?佐為? 佐為:中央死です。彼は自分の負けを宣言したのです。 ヒカル:え?) 佐為:おそれを抱きながらも彼は私に立ち向かってきた。3度目の対決はインターネットとや らの中での対局だった。 (アキラ:強い。進藤に敗れた時以上に高い壁を感じる。これは、進藤ではない。まさか?中 央の黒にはもう生きるもんない。 ヒカル:投了してきた。佐為、で、どういう、こいつ?塔矢だった? 佐為:まず、間違いなく。 ヒカル:そうか。で、感想は?佐為? 佐為:ええ、そうですね。彼は力強い碁でした。勝負感はさすがによい。怖いところでしっか り考え込んできますし。 ヒカル:で、塔矢、強くなってた? 佐為:強くなったのは、私のほうです。そして、ヒカル、あなたも。 ヒカル:俺も? 佐為:私の対局を何十局と見てきたのですから。) 佐為:そう。私はヒカルと共に学んできた、現代の囲碁。塔矢と戦うことによって。塔矢アキ ラは私を追い、ヒカルはそんな塔矢を追ってきた。そうだ、あの一局を忘れてた!ヒカルの囲 碁部の大会で、私が塔矢アキラと打っていた時。 (ヒカル:塔矢、俺、お前にどのぐらい追いついてるんだろう?打ちたい!塔矢、お前が佐為 を追うように、俺はお前を追いかけるんだ。いつか捕まえてやる。 佐為:13の4。 ヒカル:11の8に打つだろ。それから、、、 佐為:ヒカル?13の、、、 ヒカル:試したい!佐為、悪い。自分で打たなきゃ見えないんだ。知りたいんだよ、こいつと 俺の差を。 佐為:11の8? ヒカル:俺が打つ!) 佐為:思えばあのときでした。ヒカルの発想の面白さに気づいたのは。よっぽど悔しかったん でしょうね、あの時の。 (アキラ:ふざけるな! ヒカル:と、塔矢? ヒカル:お前、俺の幻影何か追ってると、本当の俺にいつか足元掬われるぞ。 アキラ:君が?いつかといわず、今から打とうか?) 佐為:あの時からヒカルは、まっしぐらに塔矢アキラを目指して進み始めた。塔矢アキラを追 って、院生になり、プロ試験にも合格して、本当に強くなった!ヒカル! (スヨン:お前の名前? ヒカル:あ? スヨン:お前の名前だよ!覚えてやるって言うだろう。 ヒカル:お。進藤ヒカル。俺の名前は進藤ヒカル。) 佐為:でも、思えばそのころからなんですよね。私がヒカル以外の人と碁が打てなくなり出し たのは。せっかく強い棋士として打てる機会が増えてきたというのに。ヒカル?ヒカルはもう 、私に打たせてくれる気がないのですか?神の一手に一番近いのは、この私なのに。神よ!な ぜ私はヒカルのもとに再び蘇ったのでしょう?神よ!やはり、答えて相手だけないのですか。 ヒカル! ヒカル:ええ? 佐為:起きて!早く起きるのです! ヒカル:なんだよ、もう?うるせえな、朝っぱらから。 佐為:起きて打つのです、私と! ヒカル:ああ?まだ朝飯も食ってないのに。やだよ、オレ。 佐為:やだじゃありません!とにかく神の一手を究めるために打つのです!私にはヒカルしか いないのですから。 ヒカル:どうしたんだよ、佐為?お前、何か変だぞ。 佐為:いいえ。とりあえずそういう結論に達したんです。いいから、ほら、ほら!もう、ほら ! ヒカル:あと30分だけ寝させて! 佐為:だめ!ヒカル、ちょっと!ね、ヒカル、起きてよ! ヒカル:お休み~ 佐為:起きましょうよ、ヒカル!ヒカル! |